「ITプロフェッショナル」は、サイト名に拝借しているぐらい、当サイトにとっての核心となる言葉です。
しかし、わたしオリジナルの造語ではありません。
実は、ちゃんと由来があります。
「響きは格好いいんだけど、実際何を指しているのかよく分からんヤツ」で放っておくのは、もったいない。
ということで、今回は、
そもそも、ITプロフェッショナルとは、何か?
いわゆる「SE(システムエンジニア)」と、何が違うのか?
について、紹介したいと思います。
ITプロフェッショナルとは?
例のごとく、IPAが公表しているドキュメントに登場します –
情報システムを企画・構築・運用するのが、情報サービス産業である。情報サービス産業では、ITの様々な分野に精通した高度なエンジニアが数多く活躍しており、現代社会の情報システムを支える力となっている。…(中略)…
この産業を支える大きな力となっている人材を、本書では「ITプロフェッショナル」と呼ぶ。独立行政法人情報処理推進機構「ITプロフェッショナルを目指す方へのヒント集」
ググった限り、
おそらく、これが「ITプロフェッショナル」の初登場ではないかと思います。
しかし、これだけだとまだ漠然としています。
さらに詳しい記載が、「ITスキル標準V3 2011 1部: 概要編」(ITSSv3)などにあります。
詳細は省きますが、2つの資料を合わせると、「ITプロフェッショナル」とは、
情報サービス産業において、以下11個の職種のいずれかで、一定レベル以上の成果をあげた者
を指します。
- マーケティング
- セールス
- コンサルタント
- ITアーキテクト
- プロジェクトマネジメント
- ITスペシャリスト
- アプリケーションスペシャリスト
- ソフトウェアデベロップメント
- カスタマサービス
- ITサービスマネジメント
- エデュケーション
そうすると、以下の新たな問いが出てきます。
- 11個の職種とは?
- 一定レベル以上の成果とは?
また、ITプロフェッショナルは、以下の概念とどう関係するでしょうか?
- IT投資局面(いわゆる”フェーズ”)
- 役割
それぞれ、各節で見ていきましょう。
11個の職種とは?
ITSSv3によると、11個の「職種」には、それぞれの「専門分野」があります。
各専門分野において、スキルを発揮することでタスクを遂行し、ビジネス上の成果をあげます。
例えば、職種=”ITスペシャリスト”、専門分野=”プラットフォーム”、を例にすると…
ITスペシャリスト:
ハードウェア、ソフトウェア関連の専門技術を活用し、顧客の環境に最適なシステム基盤の設計、構築、導入を実施する。
構築したシステム基盤の非機能要件(性能、回復性、可用性など)に責任を持つ。
IT投資の局面においては、開発及び運用、保守を主な活動領域として以下を実施する。
– 開発
・システムコンポネントの分析、設計
・システムの構築、導入
– 運用、保守
・システムの運用
・システムの保守プラットフォーム:
ソリューションの基盤となるシステムプラットフォームの設計、構築及び導入を行う。ここでのプラットフォームとは、ハードウェア、オペレーティングシステムや関連するシステムソフトウェア及びミドルウェアであり、システム開発、アプリケーション開発の前提となる基盤システムである。独立行政法人情報処理推進機構「ITスキル標準V3 2011 職種の概要と達成度指標 (6)ITスペシャリスト」
※上記以外の職種・専門分野について、同様の情報を、IPAサイトの「2部キャリア編」にある各リンクからダウンロードして、見ることができます。
一定レベル以上の成果とは?
ITSSv3では、プロフェッショナルとしての評価は「達成度指標」を用います。
「達成度指標」とは、職種と専門分野ごとの実務能力を、実績をベースとして客観的に評価する指標であり、7段階の「レベル」によって表現されます。
ちなみに、「達成度指標」とは別の指標である「スキル熟練度」も同様にレベル付けされますが、プロフェッショナルとしての評価には直接的に影響しません。
(※例えば、Aさんは、その職種・専門分野では、[達成度指標]=”レベル5″、[スキル熟練度]=”レベル4″、であれば、”レベル5″のプロフェッショナルと位置付けられます。)
では、どうやって「達成度指標」のレベルを判定すべきか?
ITSSv3では、各職種・専門分野に共通する「達成度指標」判定の目安を示しています。
- レベル7: 業界をリードし、市場への影響力がある者。
- レベル6: 業界に貢献する者として市場で認知されている。
- レベル5: 所属する企業をリードする者として企業内で認知されている。
- レベル4: 業務上の課題の発見と解決を独力でリードする。ハイレベルのプレーヤとして企業内で認知されている。
- レベル3: 要求された作業をすべて独力で遂行する。プロフェッショナルとなるために必要な応用的知識・技能を有する。
- レベル2: 上位者の指導の下に、要求された作業を担当する。プロフェッショナルとなるために必要な基礎的知識・技能を有する。
- レベル1: 情報技術に携わる者に最低限必要な基礎知識を有する。
したがって、「一定レベル以上の成果」とは、
その職種・専門分野の「達成度指標」が、”レベル4″以上である
ということになります。
※各職種・専門分野の具体的な「達成度指標」判定については、IPAサイトの「2部キャリア編」にある各リンクからダウンロードして、見ることができます。
IT投資局面
「IT投資局面」とは、情報システムのライフサイクルであり、以下の4つの局面と、各局面における活動領域があります。
- 経営戦略策定: 経営目標/ビジョン策定、ビジネス戦略策定
- 戦略的情報化企画: 課題整理/分析、ソリューション設計
- 開発: コンポーネント設計、ソリューション構築
- 運用・保守: ソリューション運用、ソリューション保守
いわゆる”PDCAサイクル”のイメージでしょうか。
なお、プロジェクトの現場では、”局面”ではなく、”開発プロセス”、”ステップ”、”フェーズ”などと呼ぶ方が多い気がします。
そして、「IT投資局面」「活動領域」によって、主に活躍する「職種」が、対応付けられます。
例えば、戦略的情報化企画というIT投資の局面には、「課題の整理/分析」という活動領域がある。この活動領域において、ビジネス課題の整理とソリューションの提案を行うのが「セールス」、ソリューション策定のための助言を行うのが「コンサルタント」、ソリューションの枠組みを策定するのが「ITアーキテクト」ということになる。
独立行政法人情報処理推進機構「ITスキル標準V3 2011 2部: キャリア編」
一方で、このモデルには、最新の開発手法を踏まえたアップデートが必要かもしれません。
まず、”ウォータフォール開発”が、暗黙の前提となっていること。
ウォータフォール開発であれば、一つのプロジェクトにつき各IT投資局面は一回ずつ、
アジャイル開発であれば、一つのプロジェクトにつき「戦略的情報化企画」「開発」の局面を、複数回すことになります。
また、企画・開発と運用・保守は、別のIT投資局面として明確に区切られているが、近年は、DevOps – 開発担当者と保守担当者を固定的に分けず、両者が協力し合う開発手法 – という新しい考え方が登場しています。
役割
「役割」は、企業またはプロジェクトなどの単位ごとに、各人に割り当てられます。
ITSSv3によると、役割には、以下の3種類があります。
- 責任者: 活動プロセスの全局面における責任者
- リーダ: 該当する活動局面の担当分野での実施の推進者
- メンバ: 成果物を作り出す担当者
ITSSにおいて、役割は、職種とは全く別の概念であり、それぞれ独立しています。
一方、レベルごとに果たすべき役割は、基本的に以下のように規定されています。
- レベル5~7: 責任者
- レベル4: リーダ
- レベル1-3: メンバ
したがって、ITプロフェッショナルは、通常、
IT投資局面において、何らかの専門分野について、リーダ以上の役割を任される
ことが期待されています。
SEとの違いは?
IPAは、2006年にはすでに、従来のキャリアパスを定義し直そうとしています。
我が国のIT人材の育成は、プログラマ→SE→プロジェクトリーダといった単線的なパスが一般的であり、IT人材が中堅レベルの開発技術者に集中するという状況が生まれていた。多様化、深化している顧客ニーズに応えていくためには、それぞれのソリューションや新たな技術分野の専門家をプロフェッショナルとして育成していく必要がある。
独立行政法人情報処理推進機構「ITスキル標準V2 1部: 概要編」
しかし、11個の職種を始めとするITスキル標準の枠組みは、まだまだ一部でしか普及しておらず、”プログラマ”、”SE”、”プロジェクトリーダ”といった呼称は、しぶとく生き残っています。
特に、”SE”は通りが良くて便利なので、私も使わせて頂いていますが、「あ、SEなんですね〜」という返事に漂う微妙な間が、「実際何してんだコイツ??」と思われている感を、そこはかとなく伝えてくれます…。
一般には、「プログラマをある程度やって卒業した人が、SEに昇格する」みたいな先入観を持たれているかも知れません。
実際は、私のように「プログラマ経験無し」それか「プログラミングは趣味レベルでやってました」というSEの方がたくさんいます。
ITSSv3では、SEは、「ITアーキテクト」「ITスペシャリスト」「アプリケーションスペシャリスト」「ITサービスマネジメント」のいずれかの専門分野で働いている人たち、とイメージされています。
例えば、友人に「あなたは会社でどんな仕事をしているの?」と聞かれて、
「うちの会社が担いでいる業務アプリケーションのアドオン機能を開発している。
最近だと、”D社”の導入プロジェクトにアサインされていて、アドオン機能の物理設計と実装(プログラミング)をやっている」と答えたならば、
「じゃあ、あなたはプログラマってことですよね?」とたぶん確かめられると思います。
そこであなたは「まぁ、そうなんだけど…」と一拍をおいてから、
「厳密には、
- “アプリケーションスペシャリスト”という職種、
- “業務パッケージ”という専門分野において、
- “Lv4”の達成度指標を有するITプロフェッショナルであり、
- “開発”のIT投資局面を主活動として、
- xxコンポーネントの“リーダー”として、
プログラムコードの執筆をとりまとめている。」
と二の矢を放つ必要があります!
…と、ITSSモデルの気持ちを代弁すると、こんな感じでしょうか?
ご友人にこの通り答えると、「こいつは只者ではない(笑)」と思われること間違いなしです。
–
この通りに周りに吹聴するかはさておき、
「千里の道も一歩から」
一人ひとりが、従来型の”SE”からもう一歩踏み込んで、自分なりの”ITプロフェッショナル”を目指してみてはいかがでしょうか?
ということで、別記事に続きます。
まとめ
総合すると、ITプロフェッショナルとは、
いずれかのIT投資局面において、何らかの専門分野について、リーダ以上の役割を任される者
です。